有害図書規制とamazon、それと幾つか



鳥取県を訴えても


『公権力による“暴力” 』とまで言うなら訴えればいいのではとは思うんですけど、残念ながら、勝つハードルは決して低くはないと思われます。


いや、確かに、言いてえことはわかるんですよ。
要するに青少年保護のためとはいえ、amazonで全く扱われなくなるのはなんぼなんでも影響範囲が広すぎじゃないかっていう話で、それはもっともと言えばもっともですし、最高裁有害図書規制の合憲性を認めた判決の補足意見でも似たようなことは言ってるんです。


すでにみたように本件条例による有害図書の規制は、表現の自由、知る自由を制限するものであるが、これが基本的に是認されるのは青少年の保護のための規制であるという特殊性に基づくといえる。もし成人を含めて知る自由を本件条例のような態様方法によって制限するとすれば、憲法上の厳格な判断基準が適用される結果違憲とされることを免れないと思われる。そして、たとえ青少年の知る自由を制限することを目的とするものであっても、その規制の実質的な効果が成人の知る自由を全く封殺するような場合には、同じような判断を受けざるをえないであろう。


最高裁平成元年九月十九日第三小法廷判決


ただこういう理屈があるとはいえ、それがこの場合に認められるとは一概には言いきれんなあと。


だって結局のところ、鳥取の条例って青少年に売るなって言ってるだけであって、取り扱い自体を止めろとまでは言ってないわけじゃないですか。

2)有害図書類又は有害玩具刃物類の販売等の禁止(新設 第16条第2項)
  有害図書類又は有害玩具刃物類を青少年に販売等をすることを禁ずる規定について、インターネットの利用その他の方法により鳥取県内において当該行為を行った全ての図書類又は玩具刃物類の販売等を業とする者に適用することを明示する。



取り扱い自体を止めるっていうのは、あくまでもamazonが判断して、amazonがやったことなんですから、


「いかに青少年保護のためとはいえ、取り扱い自体を止めるのは流石に不当」


って鳥取県を訴えたところで、


「ウチらはそこまでやれとは言ってねえ」


って反論されると思うし、それはそれでもっともでしょうよ。


逆に、それで不当だってことになったら、amazonがやったことの責任まで鳥取県がかぶることになることになるので、その場合はその場合で、おかしいことになるのではないでしょうか。
仮に県がamazonにそうするように言ったってんなら、それは話が変わってきそうですけど、そんなことは今のところなさそうですし。


だから、結局のところ、この話が大きくなってるというか、深刻になってるのは、条例は青少年に売るなって言ってるだけなのに、amazonが自分の判断として取り扱い自体を止めた結果として、青少年健全育成条例が定めてる以上の規制が行われてしまっているっていうところだと思うんですよ。


・じゃあ、amazonを訴えればいいのか


しかしながら、かといって、amazon訴えたところで、分がいいとは思えない。


「ウチが何を取り扱おうが、取り扱わなかろうが、こっちの勝手やろ」


って言われたら、


「せやな」


って言わざるを得ないですしね。営業の自由ってもんがあるから。



だから、前BLの話があったときも思ったんですけど、意外とこの問題攻めどころがないんじゃねえかと。


そして、そこのところが一番大きな問題なんじゃねえのかなあと僕自身は考えていたりします。


ただ、個人的には、どっちの方がより問題かって言えば、自治体よりamazonの方だろとは思ってます。
確かにそもそも自治体の有害指定がなければってのも、わからないではないですよ。


だけど、自治体が言ってるのは、青少年に売るなっていう話で、それは言い換えれば、年齢確認して売れってことでしょうよ。
そして、今回の件の出版社も、amazonになんなら成年指定でもいいですって言ってたわけでしょ。


つまり、落としどころは見えてるわけじゃないですか。
それで、amazonだけが駄目だって言ってると。


じゃあ、amazonが悪いじゃん、と。


そもそも何をそんなに嫌がってるのかがよくわからねえ。


成年指定にするぐらいのことが技術的にできないわけないし、現にitmediaの記事によれば、ヨドバシとhontoはアダルトにしてるらしいし。


「鳥取での販売がもはやリスク」──県の有害図書指定でAmazonから排除 三才ブックスが抗議のPDF公開 - ITmedia NEWS


それとも何か?


インターネット上では年齢確認が十分には、あるいは厳密にはできないから、未成年に売ってしまうかもしれないし、もしそうなったら罰金取られるからとか、そういうことか?


じゃあなんで酒売ってんだよ。


お酒 通販 | Amazon



未成年に売ると罰金取られんのは一緒やんけ。

第1条 満20年に至らさる者は酒類を飲用することを得す
2 未成年者に対して親権を行ふ者若は親権者に代りて之を監督する者未成年者の飲酒を知りたるときは之を制止すへし
3 営業者にして其の業態上酒類を販売又は供与する者は満20年に至らさる者の飲用に供することを知りて酒類を販売又は供与することを得す


第3条 第1条第3項の規定に違反したる者は50万円以下の罰金に処す

同上


現実的に考えてamazonで酒買ってる未成年とかおらんわけないと思うけどそれでamazonが罰金食ったとかいう話は聞いたことがない。


それは、amazonがサイト上で年齢確認してるから、「いやうちらはちゃんと年齢確認してますから、相手が未成年だなんて知りませんでしたよ」っていう反論が出来るからでしょうよ。


一方、鳥取の条例はどうか。

(有害図書類又は有害玩具刃物類の販売等の禁止)

第16条 図書類又は玩具刃物類の販売等を業とする者は、有害図書類又は有害玩具刃物類を青少年に販売し、頒布し、貸し付け、又は交換により入手させてはならない。


2 前項の規定は、インターネットの利用その他の方法により鳥取県内において前項に規定する行為を行った全ての図書類又は玩具刃物類の販売等を業とする者に適用する。


第6章 罰則
第26条

(中略)

5 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。


(1) 第16条第1項、第17条第1項、第21条の2第1項又は第21条の3の規定に違反した者


(中略)


9 第17条の7第1項若しくは第2項、第18条又は第21条の2第1項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第1項、第5項又は第6項の規定による処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない。


同上


『第17条の7第1項若しくは第2項、第18条又は第21条の2第1項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として』『処罰を免れることができない』ってのは、つまり、今回問題になってる十六条含めた他の条文に関しては年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができるってことと違うの。


なら酒の場合と同様に年齢確認して、「未成年だなんて知りませんでした」って言えるようにしとけばええんちゃうの。


と、個人的には思うので、やっぱamazonおかしいのではという。


ただまあ、こんな理屈をこねたところで、さして意味はないといえば意味はないんですけど。
上でも書きましたけど、多分こういうことを裁判で言ったところで、「何をどうしようが、ウチらの勝手やろ」って言われて終わる気しかしない。


だから、出来ることって、せいぜいamazonに対して、要望するとか抗議するとか、あるいは署名活動するとか不買運動するとか、そんなことしかないんでねえかなと。

そして、それにどれほど意味があるかって言われると、いささか絶望的な気分になってくる。まあ、無意味ではないとは思いますが。

・情報公開について


さて、ここまでamazonの話ばかりしてきたので、鳥取県の方にももう少しだけ触れておこうかと思います。


別に僕はamazonの方がより悪いのではなかろうかって言ってるだけであって、鳥取県に一切非がないと言うつもりはないので。


で、勿論、従来言われている通り、有害図書規制にはいろいろ問題があろうかと思われますが、特に今回の鳥取県に関しては、それに関する文書がなんかぺら一枚だとかいうことが、ちょっとどうかという点ではあります。


例えば、前調べたことあるんですけど、東京都が有害指定するときに出して来る奴ってそこそこ詳しいんですよね。

東京都青少年健全育成審議会|都民安全推進部
東京都青少年健全育成審議会 会議資料議事録 令和4年度|都民安全推進部


見たらわかるんですけど、議事録とか、自主規制団体からの意見聴取結果とか、ある程度いろいろあるわけですよ。


当然、これが十分なのかという議論もあるかと思いますし、こういうもんがあればそれでいいというもんでもないんですが、だからといってなくてもいいというもんでもないので。


鳥取県には、行政として、是非とも記録とか文書とか情報公開とかを大事にしていただきたい。


・条例の域外への適用について


それから、条例という地方公共団体が定めるものの中において、その域外とか域内とか関係なくネット通販にまでその範囲を広げていいのかという話もあるかと思います。


ただここに関しては残念ながらというべきか、なんというべきか、条例はそれを定めた地方公共団体の域外にも適用されうるということになっているようです。


僕も知らなかったんですが、実際にそういう判例があるんですね。


ストーカーじみた電話を何回もかけた結果、迷惑防止条例違反に問われたという事例なんですが、

条例は当該地方公共団体の区域内の行為に適用されるのが原則であるものの、本件のように当該地方公共団体の区域外から区域内に向けて内容が犯罪となる電話をかける行為に及んだ場合には、電話をかけた場所のみならず、電話を受けた場所である結果発生地も犯罪地と認められる


まあこれ考えたら当たり前のことで、現に鳥取県のサイトの同じページにもこれを踏まえたようなことが書いてんですよね。

(1)児童ポルノ等の提供の求めの禁止(新設 第18条第2項)
  青少年が自らの裸体等を撮影させられた上でメール等によりその画像等を送らされる被害が発生していることに鑑み、青少年に対して児童ポルノ等の提供を求める行為を禁止することとし、何人(※1)も、正当な理由(※2)がなく、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めてはならないものとする。


※1 「何人(なんぴと」とは
 県民はもとより旅行者、滞在者などの全ての自然人を指し、国籍、性別、年齢を問いません。この他、電話や手紙、インターネットなどを通じて県外から県内の青少年に接する者も含まれます。



確かに、域外への適用を否定すると、こういう場合も困っちゃうよねえ、と。


しかしながら、こういう解釈があるってことを前提にすると、他の地方公共団体による有害図書指定も、わざわざ書いてないだけで、ネット通販への適用は有り得るのではないかという気がしてくるんですけど、僕の考えすぎでしょうか。


となると、鳥取がリスクというか、そのリスクって青少年条例があるところなら、どこでもあるのではという気がします。

それで、改めて鳥取のページ見てみたら、

有害図書類又は有害玩具刃物類を青少年に販売等をすることを禁ずる規定について、インターネットの利用その他の方法により鳥取県内において当該行為を行った全ての図書類又は玩具刃物類の販売等を業とする者に適用することを明示する。


同上


『明示する』ってちゃんと書いてあるんで、要するにもともとそうだったけど、改めてはっきり言っとくねってことでしかないのではという。


・有害指定された図書について気になること


あと、今回の有害指定自体どうなのかって話に関しては、俺はこの三冊を持ってるわけではないので、判断はしかねます。


ただ、その上で一点だけ気になってることがありまして。


『アリエナイ医学事典』と『アリエナイ工作事典』っていうのは何か聞いたことあるようなないようなとは思ったんですが、三つ目の『裏グッズカタログ2022』ってのが何だろうと思って、公式サイトを見てみたら、以下のようなうたい文句が書いてあったんですよ。

今回は巻頭カラーを丸っと使って、中華通販サイトの「AliExpress」で買える注目グッズを紹介。
ピッ○ガンやつまようじク○スボウなど、国内での販売が規制されている危ないブツが格安で売られている現状にも切り込みます!



つまようじクロスボウってそんなもんもありましたね。
確かなんか事件になってませんでしたっけ。

つまようじボーガン発射、顔に突き刺した疑い 2人逮捕:朝日新聞デジタル
【今週の注目記事】最速100キロ超「つまようじボーガン」の威力…捜査員も眉ひそめる顔面〝針ネズミ〟画像、凄惨リンチの顛末は(1/4ページ) - 産経ニュース
「爪楊枝ボウガン」中国の小学生に大流行 その危険性は... | ハフポスト NEWS


ハフィントンポストの記事には中国でも規制され始めてるみてえなことが書いてあるので、今でも売ってんのかな? とも思うんですけど、『現状にも切り込みます』とか言ってる以上、売ってんでしょう、多分。


で、察しのいい人はわかるとは思うんですけど、鳥取って青少年条例でクロスボウ規制してんですよね。
有害玩具刃物類の指定について/とりネット/鳥取県公式サイト

まあ、当然のことながら、鳥取だけでもないんですけど。
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/14087/00367458/sankou1.pdf

これ大阪の資料なんですけど、令和二年で一気に増えてるのは、宝塚の事件が原因でしょうね。
ボーガン4人死傷、殺人容疑で再逮捕へ 殺意認める供述:朝日新聞デジタル



ちょいと話がずれましたけど、要するに、他二冊はともかく裏グッズカタログとやらが指定食らったのわりとこの辺りが原因なのではという。
無論、本当のところはわからないですし、一因ではあるけどこれだけではないということも十分考えられます。


うたい文句の中で、つまようじクロスボウと一緒に紹介されてるピックガンとかいうのも原因としては考えられるかと思うので。


ピックガンって全然知らなくて、針を打ち込む工具かなんかかと思ったら、普通にピッキングの道具で、業者だからとかそういう正当な理由がない限り所持すら禁止らしいですもん。


ピッキング行為 - Wikipedia


とはいえ、僕はだから指定は妥当とか、これがあるからといって妥当ではないとか、そういう話をしたいわけではありません。さっきも言いましたが。


じゃあ、何なのかって言うと、ちょっと思い出して欲しいんですけど、出版社はこのカタログについて、こんな風に説明してたわけですよ。

『裏グッズカタログ2022』に載っているアイテムは「どれも普通にネット通販で買えるモノ」である



確かに嘘は言ってないですよ。


しかし、規制されてるようなもんを紹介してますってところに一切触れないのはちょっとどうなんでしょうか。


だってこのことって、今回の件を個々人が考えるにあたって、全く関係がないってことはないでしょ。どの程度重要かはその人によるとしても。


だから、僕としては、内容がどうのこうの以前の話として、そこをぼかしてるのは、どういうことなのかってのが気になるんですよ。
わざとやってんのか、なんなのか知りませんけども。


と思ってたら、abematimesでも

スマホ周辺機器から偽装カメラ、サバイバル用品など市販品を紹介する『裏グッズカタログ2022』



とかいう紹介のされ方をしてるみたいなんで、わざとと考えていいのかなあって気もしますが。


何にしろ、そういう部分も含めて堂々と言えばいいし、そうすべきだと僕は思うんですが、いかがでしょうか。

・最後に


まあ、いろいろ言いましたが、裁判なんてものは蓋開けてみないと何とも言えないもんかと思いますので、是非とも起こしていただきたいとは思います。


どんな結果にしろ、裁判所の判断が示されるっていうのは、議論を進めるうえで一助になることは確かでしょうから。


ただ、最後に付け加えておくと、冒頭で紹介した最高裁の補足意見って続きの部分にこういうくだりがありまして。

 しかしながら、青少年の知る自由を制限する規制がかりに成人の知る自由を制約することがあつても、青少年の保護の目的からみて必要とされる規制に伴って当然に附随的に生ずる効果であつて、成人にはこの規制を受ける図書等を入手する方法が認められている場合には、その限度での成人の知る自由の制約もやむをえないものと考えられる。本件条例は書店における販売のみでなく自動販売機(以下「自販機」という。)による販売を規制し、本件条例六条二項によって有害図書として指定されたものは自販機への収納を禁止されるのであるから、成人が自販機によってこれらの図書を簡易に入手する便宜を奪われることになり、成人の知る自由に対するかなりきびしい制限であるということができるが、他の方法でこれらの図書に接する機会が全く閉ざされているとの立証はないし、成人に対しては、特定の態様による販売が事実上抑止されるにとどまるものであるから、有害図書とされるものが一般に価値がないか又は極めて乏しいことをあわせ考えるとき、成人の知る自由の制約とされることを理由に本件条例を違憲とするのは相当ではない。


最高裁平成元年九月十九日第三小法廷判決


有害図書に価値がないとかいう部分は一旦措くにしても、この補足意見の理屈で行くと、訴えたところで、


amazon以外で買えるからええやん」


って一蹴されそうな気もします。


つるかめつるかめ。


クッソ長い上に、まとまりのない話になってしまいましたが、今日はこの辺で。