曽野綾子を見て少年兵を思い出す。真に人間の記憶とは不思議なものである。

人間の記憶とは不思議なものである。他の部分はほとんど覚えていないのに、一部だけやたらはっきりと、しかも何年も覚えていたり、その瞬間まで綺麗さっぱり忘れ去っていたものを、ふとしたきっかけで思い出す。
「何を見ても何かを思い出す」とは、ヘミングウェイも上手いこと言ったものである。

というわけで、以下を見ていてふと思い出したこと。

「心の健康に不安がある」人たちはそれぞれの「戦場」を抱えているのだ。そしてこの身体に「戦場」を抱えている、という意味では、(こういう言い方は語弊があるしあまり好きではないがあえてする)曾野綾子氏が「=不幸である」とする発展途上国の人間も、心に不安を抱える「自分の幸せに無自覚な」現代日本人も同じ「今日一日を必死で生き抜く人間」なのである。

これを見ていて、僕は、以前大学の講義で見た、少年兵に関するドキュメンタリー(というかビデオ?)を思い出した。

元少年兵に対する支援活動がその中で紹介されていたのだが、あるシーンが、鮮烈に印象に残っていた。
それは、元少年兵達が、「日本では、毎年、何万人もの人が自殺している」という事実を知って驚いた、というシーンである。

彼らが驚くのも無理はないだろう。少し語弊のある言い方だとは思うが、それこそ、

 戦争もなく、食料危機もなく、学校へ行けない物理的な理由もないというのに、そして私流の判断をつけ加えれば、今日食べるものがないというのでもなく、動物のように雨に濡れて寝るという家に住んでいるのでもなく、お風呂に入れず病気にかかってもお金がなければ完全に放置される途上国暮らしでもない

のに、何故自殺するのか。そういうことだろう。
それも、彼らは生半可な修羅場をくぐって来たわけではない。少年兵 - Wikipedia
曽野綾子は、

何よりも日常生活の中に爆発音がしない。それだけでも天国と感じている。

と言っているが、彼らは、それこそ、そういうところを潜り抜け、やっとの思いで生き残ったのだ。
そんな彼らからすれば、日本のような「天国」で何故自殺するのか、余人よりも余計に不思議に思えるだろう。


だが、彼らは、曽野綾子のようなことは言わなかった。
うろ覚えなので、全くもって正確ではないが、上記の事実を知った一人の少年は、

『日本人にも、いろいろつらいことがあるんだということが分かった』

こういうことを言ったのである。

勿論、これはビデオであったから、誰かに言わされているという可能性もあるし、そんなことを言っているのは彼だけで、大半の元少年兵は、そんなことは思っていないのかもしれない。


それでも、僕は曽野綾子の発言よりも、彼の発言の方が、心に残る。残ってしまう。


爆弾でも、ストレスでも、人は死ぬのだ。そして、人が死ぬ以上、id:Prodigal_Son氏が指摘した通り、そこは戦場なのだろう。
その元少年兵の彼は、それを感じ取っていたのではないか。僕には、そう思えてならないのである。


BGM:「The Journey Home “ACE COMBAT 5 Ending Theme"」Mary Elizabeth McGlynn