論争の際に相手をアホ呼ばわりすることは、敗北への第一歩な件
正純の頭脳と人間についてなら、二郎三郎は熟知し、信頼もしている。さすがは弥八郎正信の子である。官吏としての才能は群を超えていたし、徳川家への忠節度も弥八郎ゆずりの強固さだった。難をいえば、頭が切れすぎるために、やや性急のきらいがある。そして愚者に弱い。自分には判りきったことを、根気良く人に納得させるだけの忍耐がない。極力抑えてはいるのだが、そうした時、つい感情が顔に出てしまう。その表情は、
<この馬鹿が……>
と口に出して云ったのと同じ効果を相手に与える。愚者はそうした軽蔑に異常に敏感である。即座にその表情を読みとって、気持ちを硬化させてしまう。一旦そうなったら最後である。どんなに明快に説明しようと愚者には判らない。いや、判らないふりをし続ける。そしてこの勝負は愚者の勝利に終るのが常であった。
- 作者: 隆慶一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1993/08/31
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はてな見てると、普通にあるある過ぎて困る。