行政訴訟について〜ねたミシュランによせて〜
先日のインド人一家の特別在留許可(http://www.asahi.com/national/update/1201/TKY200911300531.html)を受けて、以下のようなtwitterのやりとりの一部がねたミシュラン(id:netamiさんのサイト)さんに載りました。
http://netamichelin.net/archives/1602168.html(魚拓)
(20100412追記:見難い人は、ねたミシュラン(現:ねたたま)の管理人さんと弁理士さんのやりとり。 - Togetterをどうぞ。)
(20110618追記:tweetの引用方法を変えました。)
@okube1 先生、この最高裁で確定したのが覆るってどうなんですかね? http://www.asahi.com/national/update/1201/TKY200911300531.html
@netamichelin あいまい回答をお許し下さい。http://www.moj.go.jp/NYUKAN/nyukan85.html どうも最高裁決定とは別ルート(行政)にてガイドラインを策定しているようですね。
@netamichelin ガイドラインには法的拘束力がありません。行政が勝手に方針をつくっているだけ。一方、最高裁判決は既判力がはたらきます。つまり、同様の事件は同様の判決が下る。
@netamichelin で、今回のケース。千葉法相は、既判力が働く司法の決定を「いや、行政と司法って別々でしょww」っていう視点の元、自分が行政の長であることを棚に上げて行政の法的拘束力がないガイドラインに基づいて在留許可を出した、ってところでは。
@netamichelin 棚に上げて→法相であるのをいいことに
@netamichelin ぶっちゃけ他の役職大臣なら「うわ、司法にけんか売る気満々やな」って感じなんですが、いかんせん法務大臣がそれをやっちゃあかんやろwというのが僕の感想ですね。
@netamichelin 司法にはあまり詳しくないのですが、たぶんどこかのだれかが行政処分に対する不服の訴訟を起こしたら勝訴(特別在留取り消し)におなるのではないかと
@netamichelin まあそんな行政の横暴を許さないために行政処分救済法として行政不服審査法や行政事件処分法があるのではないかと思うのですが。ああ、この辺になるとたぶんぼくの友人(司法合格検事志望)に聞いた方がよさそうです。
@netamichelin 今回のケース。最高裁は圧倒的パワーをもっていますが、千葉法相がそれと反することを行うこと自体は「可能」だと思います。ただ、行政が横暴なことをしているので司法パワーで抑制する。それが三権分立。
@netamichelin ただ、訴えなければ訴訟なし、利益なければ訴訟なし、という感じなので、在留許可取り消しのための訴権が誰にあるのかってなところですなあ。
@netamichelin 基本的には誰か義憤に駆られた人が訴訟すれば、速攻で在留資格取り消しになりそうな気がします。
@netamichelin ただ「その誰か」になったとき、世論(劇場型に弱い人達)の批判を浴びることになるでしょうねえ。しかも訴訟に勝っても金がもらえるわけでもなく。
@netamichelin 普通の頭をもっていたら、最高裁決定に逆らうわけがありません。まあ、目の前に炎があったらそこにつっこむ人は普通いない。ただ今回は普通の頭を持っていなかったのが法務大臣だったというお話し。オワタ
( ゚д゚) (つд⊂)ゴシゴシ (;゚д゚)
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どこから突っ込んだらええんや……。
id:seijigakutoさんやらにおんぶにだっこで申し訳ないんやけど、基本的なところは以下を参照で。
民主党天下にもはや法律など無意味か?最高裁で退去処分となった中国人に千葉法... - id:seijigakuto - seijigakuto - はてなハイク
外国人政策/カルデロン一家問題 - e-politics - アットウィキ
で、ここらではフォローしきれへんとこ行かさしてもらうわな。
とりあえずどうでもええとこから行くと、
@netamichelin まあそんな行政の横暴を許さないために行政処分救済法として行政不服審査法や行政事件処分法があるのではないかと思うのですが。ああ、この辺になるとたぶんぼくの友人(司法合格検事志望)に聞いた方がよさそうです。
この「行政事件処分法」って多分、「行政事件訴訟法」の間違いな。
で、こっからが本番。
@netamichelin 司法にはあまり詳しくないのですが、たぶんどこかのだれかが行政処分に対する不服の訴訟を起こしたら勝訴(特別在留取り消し)におなるのではないかと
@netamichelin ただ、訴えなければ訴訟なし、利益なければ訴訟なし、という感じなので、在留許可取り消しのための訴権が誰にあるのかってなところですなあ。
@netamichelin 基本的には誰か義憤に駆られた人が訴訟すれば、速攻で在留資格取り消しになりそうな気がします。
『義憤に駆られた人が訴訟すれば、速攻で在留資格取り消し』?
、ミ川川川彡 ,ィr彡'";;;;;;;;;;;;;;; ミ 彡 ,.ィi彡',.=从i、;;;;;;;;;;;; 三 ギ そ 三 ,ィ/イ,r'" .i!li,il i、ミ',:;;;; 三. ャ れ 三 ,. -‐==- 、, /!li/'/ l'' l', ',ヾ,ヽ; 三 グ は 三 ,,__-=ニ三三ニヾヽl!/,_ ,_i 、,,.ィ'=-、_ヾヾ 三 で 三,. ‐ニ三=,==‐ ''' `‐゛j,ェツ''''ー=5r‐ォ、, ヽ 三. 言 ひ 三 .,,__/ . ,' ン′  ̄ 三 っ ょ 三 / i l, 三. て っ 三 ノ ..::.:... ,_ i ! `´' J 三 る と 三 iェァメ`'7rェ、,ー' i }エ=、 三 の し 三 ノ "'  ̄ ! '';;;;;;; 三 か て 三. iヽ,_ン J l 三 !? 三 !し=、 ヽ i ,. 彡 ミ ! "'' `'′ ヽ、,,__,,..,_ィ,..r,',", 彡川川川ミ. l _, , | ` ー、�顱�,ン _,,, ヽ、 _,,,,,ィニ三"'" ,,.'ヘ rー‐ ''''''" `, i'''ニ'" ,. -‐'" `/ ヽ ! i´ / ノレ'ー'! / O
まあ、世の中何が起こるか知れたもんやないから絶対とは言わへんけど、かなり難しいと思うで、それ。
いまひとつはっきりしないが、『取り消し』と言うからには、ここでは、「取消訴訟」の話をしているものと考えられる。
この場合、まず出てくるのが「原告適格」の問題である。
「原告適格」とは読んで字のごとく、取消訴訟を起こす、すなわち原告になる資格のことである。教科書を引用すれば、
(尚、在留特別許可に処分性があることは間違いないと思うのでそこは割愛した。)
このとき、原告が行政処分の名宛人、つまりは行政処分を下された人間である場合、原告適格の問題は生じない。
実務上問題となるのは、このような処分の名宛人以外の第三者又は形式上特定の名宛人のない処分における付近住民などである
同上P117
『義憤に駆られた人』というのは、名宛人ではなく第三者であると思われるので、原告適格の問題が生じる。
では、どういう場合に原告適格が認められるのか。
判例曰く、
「行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも斟酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。」
長い上に難しいのでなかなか理解できないと思うが、とりあえず、訴える人間に、当該処分によってなんらかの利益侵害が発生している(もしくは、発生する可能性がある)ことを求めていることが分かるかと思う。
かつ、その利益は、「法律上保護された利益」でなければならない。
そして、それが「法律上保護された利益」であるかどうかは、処分の根拠法規が一般的公益に加えて、個人的な利益を保護しているかどうかによる、としている。
例えば、上記の判決は、都市計画法に関するものなのだが、この場合、
「都市計画法の規定をみると、同法は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とし(1条)、都市計画の基本理念の一つとして、健康で文化的な都市生活を確保すべきことを定めており(2条)、……当該都市について公害防止計画が定められているときは都市計画がこれに適合したものでなければならないとし(13条1項柱書き)、都市施設は良好な都市環境を保持するように定めることとしている(同項5項)。」
同上
というのが一般的な公益で、それに加えて、
「都市計画事業の認可に関する同法の規定は、その趣旨及び目的にかんがみれば、事業地の周辺地域に居住する住民に対し、違法な事業に起因する騒音、振動などによってこのような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるところ、前記のような被害の内容、性質、程度等に照らせば、この具体的な利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわざるを得ない」
同上
という風に、個人的な利益も保護されている、と最高裁は言う。
勿論、法の趣旨がそういった個人的な利益を保護しているとしても、原告がその利益を有していなかったり、その利益が侵害されていなかったり(侵害されるおそれがなかったり)すれば、原告適格は認められない。
この判決においても、
「都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する。」
同上
「本件各付属街路事業の事業地内の不動産につき権利を有しないXらについて……健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあると認めることはできず……本件各付属街路事業認可の取消しを求める原告適格を有すると解することは出来ない。」
同上
などとなっている。
で、問題は、「どこかの義憤に駆られた人」に原告適格が認められるかどうかである。
略して「義憤の人」がどういう人間なのか具体的には全く不明なので、よくわからないが、まず必要なのは「利益の侵害」であって「義憤」は理由にならない。そして、『どこかのだれか』と言うからには、おそらく、この「義憤の人」は在留許可を受けたインド人一家とは何の関わり合いもない人物であると考えられ、その許可処分によって、何らかの直接的な利害侵害を受けるとは考えにくい。
こうなってくると、「社会不安」であるとか「治安の悪化」のように間接的な理由をもって来るしかないように思うが、上記のように、「直接的な被害」でなければ、認められる可能性は低いのではないかと言わざるを得ない。
ちなみに、僕は入国管理法にはあまり詳しいとはいえないので、それが、一般的な公益だけでなく、個人的な利益も保護しようとしているかについては分からない。
しかしながら、それを考えに入れずとも、上で検討したように、「義憤の人」の原告適格は認められないのではないかと思う。
ちなみに、「原告適格」が認められなければ、訴えは却下される。要するに、門前払いである。
- 行政の裁量
個人的には、十中八九「原告適格」は認められないと思うが、世の中何が起こるかわからない。だが、万々一原告適格が認められても、必ず勝てるとは限らない。
大体、この手の訴訟では、行政に広い裁量が認められることが多い。
ちょっと昔の話になるが、外国人の在留期間の更新に関して最高裁は判決の中で
出入国管理令の規定のしかたは「法務大臣に一定の期間ごとに当該外国人の在留中の状況、在留の必要性・相当性等を審査して在留の許否を決定させようとする趣旨」であり、「更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨」である。
「裁判所は、法務大臣の判断の基礎とされた重要な事実に誤認がある等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠く等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があつたものとして違法であるとすることができる」
と言っている。法務大臣、つまりは、行政に広い裁量を認め、それによっぽどの間違いがない限り、違法ではないとする立場である。
インド人一家に対して下された最高裁判決がどういったものであったかは、判決の正確な日時が記事中にないこともあって、見つけることが出来なかったが、恐らく、これと同じように行政の広い裁量を認め、強制退去処分は違法ではない、としたものと思われる。
そして、「義憤の人」が取消しを求めようとする、特別在留許可にも、法務大臣の広い裁量が認められている。つまり、インド人一家の主張が斥けられたのと同じような理屈で「義憤の人」の主張も斥けられる可能性が高いと言えるのではないだろうか。
- 終わりに
ここで登場する@okube1さんという方は弁理士さんだそうである。しかしながら、今回の件は弁理士さんからすると、完全に専門範囲外であり、ご本人も、『あまり詳しくない』とおっしゃっておられる。だが、それならば、「専門外なので、分かりません」と言うべきだったのではないか。もしくは、もっときっちり調べてから言うべきだったのではないか。そのどちらも採らず、こんなことを言っていたのでは、法律に携わる人間として、軽率のそしりは免れないのではないだろうか。
また、id:netamiさんにしても、相手が『あまり詳しくない』と言っているにもかかわらず、裏を取らずそのまま載せてしまったのは、いささか思慮の足りない行動だったのではないだろうか。
ところで、最後になってしまったが、どうして僕が今頃になって(二週間も経ってから)このエントリを上げたのかということを書いておきたい。
まあ、僕のことを多少なりともご存知の方には、
「どうせ面倒臭かっただけだろwwwww」
と言われるでしょうし、それも否定は出来ません。しかしながら、僕としては、「出来れば、僕が言わない方がいい」という考えもあったんです。
見ず知らずの人間に何かを言われて、素直に聞ける人間なんてそうそう居はしません。言われるなら、友人・知人の方が断然いいんです。幸い、今回の場合は、
@netamichelin まあそんな行政の横暴を許さないために行政処分救済法として行政不服審査法や行政事件処分法があるのではないかと思うのですが。ああ、この辺になるとたぶんぼくの友人(司法合格検事志望)に聞いた方がよさそうです。
という話があって、
「ああ、それならその人に聞いた方がええわ」
と思ったわけです。*1なんですけど、二週間ばかりこの人のtwitterをちらちら覗いてみたところ、
「聞きに行きそうな感じ全然ないな……」
と。まあ、僕の主観であって、根拠があったわけじゃねえんですが。
そういうわけで、今頃になって書いたわけですが、さっきも言った通り、見ず知らずの僕なんかにこういうことを言われて、このお二人が納得するとも思えませんので、お二人には早急にその「司法合格検事志望」の方に聞きに行くことをお勧めします。確か、司法試験の科目に行政法は入っていたはずなので、大丈夫だと思いますし。僕の話でご納得いただけたんなら別に構いませんが。
それでは、今日はこの辺で。
あー、あと書き添えておくと、今回の記事は、特別在留許可を出した法相の判断が間違ってるとか間違ってないとかそういう議論を問題にしてるんじゃなくて、そういう議論の前提になる事実に対する認識を問題にしてるんで、そこら辺、お間違えなきよう。