池田信夫が揚げ足取りでも何でもなく明確に間違っていて指摘を受けたにもかかわらず訂正しなかった例。

このネタ書こうかどうしようか大分迷ったんですけれども、
電波学者の池田信夫先生は天寿を全うして安らかに死んでください。
池田信夫、デマ発信地の軌跡 (ダイジェスト版 @ikedanob): やまもといちろうBLOG(ブログ)
などという流れもあって、いい機会かもなーと思いまして。


では、さっそく参りましょう。

住基ネットについて、最高裁は合憲判決を出した。今回の判決でもっとも重要なのは、最高裁プライバシー権を否定したことだ。

これが三年も前の話でありまして我ながらスピード感に欠けることこの上もないのですが、その辺は僕の癖と言うか特性みたいなもんなので、どうかご容赦ください。*1
ちなみに『合憲判決』の部分にリンクが張ってありまして、そのリンク先が以下になります。
http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20080307nt04.htm
で、だ。
池田信夫先生曰く
最高裁プライバシー権を否定した
そうなのですが、端的に言って、そんなことはないわけです。
実際に裁判所はどう言ってるのか、見てみましょう。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=35933&hanreiKbn=02
このページの下の『全文』というところから、判決全文を見ることが出来ます。
全文へのリンク http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080306142412.pdf(pdf注意)
引用してみましょう。

憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。

行政機関が住基ネットにより住民である被上告人らの本人確認情報を管理,利用等する行為は,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず,当該個人がこれに同意していないとしても,憲法13条により保障された上記の自由を侵害するものではないと解するのが相当である。

はい、一目瞭然でございます。
最高裁は、
住基ネットプライバシー権(何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由)を侵害しない
とは言っていますが、
プライバシー権は、憲法13条によって保障されている
ときっぱり言っています。*2
勿論、このことに気付いたのは、僕だけではありません。
池田信夫blogは当時から凄まじい数のPVを誇っていたわけでして、閲覧者も膨大な数になるわけです。
その中には、当然、これに疑問を抱いた方々がいらっしゃいました。
真っ先にコメントで指摘なさったのは、この方。

プライバシー権を否定してないのでは (藤島恵) 2008-03-07 23:14:04

リンク先によると「憲法で保障された個人に関する情報をみだりに第三者に開示されない自由を侵害しない」とあるので、プライバシー権を否定してはいない。否定したのはプライバシー権侵害の事実ではないか。

そして、それに対する池田信夫先生の反応。

プライバシー権 (ikedanobuo) 2008-03-08 11:52:25

最高裁判決は「プライバシーの侵害」を認めなかっただけで、「プライバシー権」を否定したわけではない、という解釈は可能でしょう。

しかし、いずれにしても法律に「プライバシー権」という権利はない。それを「基本的人権」だとする原告の主張が斥けられたことは、プライバシー権という概念を最高裁が認めていないということです。

同上

個人的には、「解釈の違い」で済ませるのはかなり苦しいのではないかと思います。
それと、
『プライバシーの侵害を認めなかっただけでプライバシー権を否定したわけではないという解釈は可能』
と言ったすぐ後に、
『原告の主張が斥けられた』、つまりプライバシーの侵害を認めなかった、『ということはプライバシー権という概念を最高裁が認めていないということ』
と結論付けるってな、どういうことなんでしょうか。
何がなんだかよく分かりませんが、ひょっとしてこれって、「否定していない」ということは「肯定もしていない」ということであり、「肯定していない」ということは「認めていない」とも言える。ってことで「否定していない」が「認めてもいない」ことになるとか、そういう話なんでしょうか。
まあ、何にしても、最高裁は上記の通りきっぱり認めてるわけでして『プライバシー権という概念を最高裁が認めていない』なんてことはありません。


ちなみに、このコメントの後も、指摘するコメントがいくつか書き込まれたのですが、池田信夫先生のそれに対する反応は今日に至るまでありません。


あと、

くわしいことは論文に書いたが

同上

というように池田信夫先生はプライバシーに関する論文を書いておられるわけで、どうしてこんなことになっているのか、謎は深まるばかりです。


まあ、ツンデレお嬢様系キャラなどにありがちな、
「○○なのよ!」
「いや、××じゃないですか?」
「ま、まあ、そういう解釈もあるわね!」
とか、そういう感じの話なのかもしれません。


それでは、今日はこの辺で。

*1:http://d.hatena.ne.jp/mimizuku004/20100726/1280110874なんていう記事が書けたのもそれと無関係ではないと思いますし。

*2:「何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」が要するにプライバシーのことだってのは、まずご理解いただけると思いますが、念のために書いておくと、判決が参照している昭和四十年の京都府学連事件は、憲法の教科書では『人格権の一つとしてのプライバシーの権利は、前述の京都府学連事件、前科照会事件等の最高裁判決によって憲法上の権利としても確立した。』(芦部信喜著 高橋和之補訂「憲法 第三版」P118より)ってことになってますし、後述のコメント欄の文章においてもそういう理解で話が進んでいると思います。